Mary Ellen Copeland

 

バーモント州リカバリー教育プロジェクト

 

「リカバリーのためのコース」評価研究(質的考察)

 

バーモント州精神的困難からのサバイバーの会、バーモント州精神保健サービス局 

 

この考察は、バーモント州リカバリー教育プロジェクトの一環として提供された、「リカバリーのためのコース」に参加した人たちから寄せられた、プログラム評価への自由回答を基にしています。リカバリーのためのコースに参加したことで、どのような変化がおきたかについて、次のような点が明らかになりました。

 

症状を自己管理するための技法と知識の獲得について

 

参加者は、病気の症状が現われそうであることを察知し、コントロールし、時には予防するための技法と知識を獲得したことがわかりました。リカバリーコースでは、精神病の症状は察知でき、特定の技法や道具、サポートを用いることで、症状を回避するか和らげることが出来ることを学びます。病気から完全に回復する場合もあります。従来の精神保健サービスでは、当事者はたいてい、症状を専門家に治してもらうために治療を受けるという、受身の立場におかれてきました。「リカバリーのためのコース」では、病気が生活に与える影響をコントロールするために主体的な役割を果たすように励ましを受けます。そこでは、参加者は次のようなことを学びます。

 

 

自分のWRAP(元気回復行動プラン)をつくることで、自分の病気についての全体像を理解し、元気を維持し、症状を管理するために役に立ちそうな技法を明らかにして、それらを自分の生活に取り入れはじめます。そうすることによって、新しいやり方で、リカバリーの過程に自らが責任を取るようになります。このことについて、次のようなコメントが寄せられています。

 

(リカバリーコースのおかげで)クライシスに陥らないですんでいる。自分で選択することができ、自分の症状を和らげるために、ここで学んだことを使うことが出来るのだということに気づかせてくれた。」

 

WRAPのおかげで、6月としては始めて、入院や自宅療養(クライシス休息)をとらずに過ごすことが出来た。」

 

WRAPを書いて、使ってみて、自分の生活を自分でコントロールすることが出来ていると感じることが出来た。」

 

「症状には、まだ悩まされている。このやり方-注意サインに気づいて対処すること-で、うつと躁の症状をどうやってコントロールしたらよいのか、わかり始めた気がする。」

 

「症状と自分の生活をコントロールすることができるという私の信念を裏付けてくれた。WRAPは私にとって、とても大切な道具になると思う。目にして、参考にすることができて、私がリカバリーしていくときのガイドになると思う。何が助けになって、自分が何を必要としているのかを思い出せないときに、特に力を発揮すると思う。」

 

「心の問題が癒される方向に向かっていると感じている。症状に対処することが出来て、クライシスに陥ることはないだろうと思う。」

 

「人生を豊かにすることに日々取り組むための道具を与えてくれた。」

 

「新しい展望が開けた、多分、より健康的なものだと思う。自分自身が自分の心の健康に責任を持っていて、もちろん助けは必要だけれど、自分でコントロールすることが出来ると思う。」

 

 

学ぶことと自分のためにアドボカシー(権利擁護)すること

 

「自分のために立ち上がることを学びました」(参加者のことば)

 

「リカバリーのためのコース」では、学ぶことと自分のために権利擁護をすることが、リカバリーにとっていかに大切であるかを強調しています。精神病について学び、利用できるサービス、サポート、代替的な治療方法について学ぶことで、病気をコントロールし、生活を豊かにするために、より良い判断ができるようになります。自分のために権利擁護をすることができるという自信を深めるにつれて、権利について学び、利用できるいろいろな治療やサポートについて理解を深め、サポートを必要としていることを人に伝え、サポートを受け取ることができるようになります。

 

 

サポートシステムをつくること

 

リカバリーコースでは、頼りになるサポートシステムを作り、利用することについて学びます。家族、友達、医療保健福祉サービス専門職からのサポートはとても大切であり、効果的にサポートを受けることで、症状を予防したり和らげることができるという点を強調しています。また、症状がとても深刻で、誰かに意思決定をしてもらい、あらかじめ作っておいたプランにしたがってもらわなければならないと感じるときに、サポーターからの手助けを受けることが出来ます。

 

友達、近所の人、精神的な病気の経験を持つ人、サポートグループからのサポートを望むことは、自然なサポートを好むことを意味しています。自然なサポートを求めることで、孤立することを避け、偏見を助長することにつながるかもしれず、何が提供されているかによって制限を受けてしまう専門サービスへの依存を減らすことになります。自然のサポートを使うことは、特別扱いを避けることができ、何が提供されているかに制限されることがありません。また、精神病を自ら体験しリカバリーに向かっている人たちからなるサポートグループを利用することで、自分の病気についての理解を深め、他の人はどのようにして元気を取り戻しているかがわかり、他の人がどうやって病気から回復することができたのかを目の当たりにすることで希望が得られます。

 

精神保健サービスやその他のサービス提供者のサポートを受けることを好むかどうかについては、コースに参加する前と後で変化が見られませんでした。予想外の結果でしたが、このコースの背景を考えると、納得できることでもあります。精神保健サービスの利用者は、たいてい、サポートの大部分を専門サービスに頼っています。そして、その他のサポートがなく、とても孤立しています。リカバリーコースでは、自分のまわりにいろいろなサポートがあることを示し、サポーターからどのように助けてもらえるかを検討します。それによって、参加者は、専門職サービスから受けていたサポートのかわりに、自分のまわりにある自然なサポートを使うことを考え始めるようです。次のようなコメントから、サポートの価値、特に、病気を経験した人からのサポートの価値に気がついた人が多いことがうかがわれます。

 

「このコースのおかげで、問題を持ちながらも、どうやって自分の人生を生きるかについて選択があるということに気づくことができた。そして、努力を積めば、リカバリーと健康は段階を経て起きてくるもので、友達をサポートし、友達からサポートされていることは、だれにとってもとても大切なことなのだということに気がついた。」

 

「グループホームに住んでいたときに、このコースに参加しないかと誘われた。コースの3週目にニューヨークからきていた父が亡くなった。リカバリーコーディネーターが、悲しんでいる私をサポートしてくれ、友達が出来た。今は、近くのスーパーで働いている。地域の一員になった気がして、長年の孤立感がうすれていく感じがしている。」

 

「この地域でリカバリーコースが開かれたとき、ちょうど、短期入院から退院してきたところだった。このコースによってサポートされて、入院せずに持ちこたえるためのプログラムになっていた。今年は祭日の季節がつらいのだけれど、祭日に何をして過ごすかとサポートについて話し合った。グループの人とランチに行って、その日、お互いにサポートをしあった。とてもよかった。」

 

「私と同じような問題に対処しなければならないのは、私一人ではないということに気がついた。連絡を取りあっていたい思う人に出会うことができた。行動プランがあるし、使うことの出来る資源について知識を得た。」

 

「これによってサポートが得られて、同じような病気をした人と交流して、どうやってリカバリーするかについてガイダンスと助けを受けられる場所が出来た。」

 

 

希望を見つける

 

リカバリーについて希望がふくらんだと、多くの人が答えていました。希望は、おそらく、リカバリーに最も大切なことではないでしょうか。コース修了後の調査への回答のなかの、希望についてのコメントのいくつかです。

 

「リカバリーは可能だということが、今は納得できる。」

 

「このコースによって、よくなるということについて、私の精神病に対する見方が完全に変わった。」

 

「病気の中で、一人でいるわけではないのだと気づかせてくれた。」

 

「このリカバリーのグループによって、命を取りとめた。このグループが始まったときはとても死にたかったけれど、まだ生きていて、大丈夫な気がする。」

 

「いつか、うつでなくなる日が来るだろうと思えるようになった。ほかの人を援助するためのこれを使うことが出来ると思う。」

 

「このコースによって、自分がよくなっているという証を得ることが出来た。希望を持つことが出来るのだ。」

 

「10年前にくらべて、もっと希望を感じるようになった。多くの希望をもっていて、リカバリーを信じているし、自分が選んだ専門家や、サポートチーム、リカバリーの道具を信頼している。」

 

「リカバリーによって生きる理由が見つかった。入院回数が減ってきたし、入院しても短期間ですむようになっている。この6年間、路上生活をしていた。おびえていて、一人ぼっちで、死にたかった。この地域でリカバリーコースがあると聞いた時、リカバリーコーディネーターが私に参加するように励ましてくれ、そこでは受け入れられたが気がした。クリスマスの一週間前に自分のアパートに引越した。クリスマスのディナーにリカバリーのクラスに参加していた人が3人来てくれた。仲間ができた気がして、希望が生まれた。リカバリーのおかげで、今日、生きている。」

 

 

リカバリー教育プロジェクトが及ぼした影響についての考察

 

当事者のリーダーと指導者を養成することについて

 

リカバリーのためのコースに参加した435人のうち、38人がリカバリー ファシリテーターのための研修に参加しました。そのうち3分の2は、「リカバリーのためのコース」のファシリテーターをしています。これらのファシリテーターの半数以上が精神病の経験を持ち、当事者であることを明らかにしています。リカバリー教育プロジェクトが始まって、リカバリーコースを受けたときには、彼らの大部分は地域精神保健センターのサービス利用者でした。励ましとサポートを得て、リカバリーファシリテーターとしてのトレーニングにまで進みました。これらの経験を経て、それぞれの地域でリーダー・指導者となり、コースを教え、サポートグループを運営し、サービス提供者や地域の人々にリカバリーについてプレゼンテーションを行い、リカバリーワークショップを開き、精神保健センターや病院でリカバリーのためのサービスを導入する働きかけを行うようになっています。過去2年間の間に、4人のリカバリーファシリテーターが修士号を取得し、他に4人が学校に通い始めました。これが報酬を得られるはじめての仕事となった当事者ファシリテーターもいます。スタッフとクライアントのためのリカバリー活動を企画し調整するために、当事者ファシリテーターに報酬を出す地域精神保健センターも二つありました。コースの参加者やファシリテーターの中から、地域精神保健センターの理事会や委員会の代表者になる人も多く出てきました。

 

これらの当事者リーダーや指導者の出現は目覚しいものでした。2年半前にはバーモント州には存在していなかったものです。現在では、病気について学んでリカバリーに向かっている人たちから、病気を経験している人が、リカバリーについて学び、励ましを得ることが出来ます。

 

このような当事者リーダー・指導者の存在によって、精神病の経験を持つ人が、他に比べようのない方法で私たちを導き、教え、ファシリテーターとなることができるということに、より多くのサービス提供者や当事者が気づき始めました。サービス提供者、家族や地域の人々は、実際に病気をコントロールし回復している人たちから、人々は病気をコントロールし回復することが出来るというメッセージを受け取っています。サービス提供者は、実際に病気を経験した人から、病気を経験するとはどのようなものなのかを学んでいます。そのことによって、サービス提供者とサービス利用者の間のコミュニケーションと理解が、はるかに豊かなものになっています。多くの場合、サービス提供者と当事者が対等なペアとして、お互いから、そして参加者から学びながら、「リカバリーのためのコース」の進行役をしています。この経験から、バーモント州の精神保健サービスについて理解し、向上させるための話し合いの場には、トレーナー、指導者、権利擁護者、利害関係者として、常に当事者が加わっている必要があることに注意を払うようになっています。より多くの当事者が「リカバリーのためのコース」に参加することで、より多くの人たちがリカバリーに向かう励ましを受け、リーダーシップをとるようになるでしょう。当事者リーダー・指導者の数が増えれば、バーモント州で起きている、このようなユニークな学びと理解が、さらに拡大されるはずです。

 

「症状をコントロールする方法を学ぶという勇気を持っていて、今は、その経験を人に共有するという勇気を持つメアリーエレンから学ぶことは、とてもユニークで、強い影響を受ける経験になります。経験してきた人ほど豊かに、それがどういうことなのかを語れる人はいないと思います。」(コースの参加者のことば)

 

 

世界観が根本的に変わること

 

「地球は平坦だという見方から、地球は丸いという見方に変わったようなものだ」(コースの参加者のことば)

 

リカバリー教育プロジェクトによって、バーモントでは精神病についての考え方が大きくかわってきています。サービス提供者は、薬と専門的なサポートにより症状をなくすことに忙しく、精神病を持つ人は治療されるという受身的な立場におかれていました。過去10年、エンパワーメントの理念が唱えられてはいたものの、当事者が実際に自らのリカバリーに主体的に取り組むための具体的なモデルとしては、リカバリー教育が初めてだったといえるかもしれません。これは専門職が自分たちの役割について考え直すことを意味しています。治療をクライアントに施すのではなく、クライアント自身が、症状を理解しコントロールするための技法を実際に学び、利用するサポートについて意思決定を行うのです。WRAPをつくることで、自分では意思決定が出来ないかもしれないときにも、どのようなケアとサポートを受けるかについて、意思決定することができます。このような変化によって、当事者は、リカバリーのプロセスにおける対等なパートナーとなっています。

 

サービスシステムの側では、専門職の多くが、精神病をもつ人たちの将来がどのようなものかについての見方を変えました。精神病は、もはや、一生続く慢性的な疾患とはみなされていません。サービス提供者たちは「リカバリーのためのコース」や、講演会、そしてワークショップに参加し、ファシリテーターが精神病をコントロールし回復さえできるということ示す、証人であることを目の当たりにします。このことによって、サービス提供者は、今までとは違うやり方で、クライアントをサポートする方法を学び、クライアントがよくなることについて、新たな希望を持ち始めています。コースに参加した、あるサービス提供者は次のように語っています。

 

「精神症状をもつ人たちの援助をする仕事をしていて、同じクライアントが何度も繰り返しやってくる現実に、私は希望を失い始めていた。ここで学んだことと、みんながここで共有したことを目にして、見方が大きく変わった。昔のように、仕事に行くことが楽しみになり、人々がリカバリーしていくことの手助けが出来ることを楽しみにするようなった。」

 

 

当事者、サービス提供者、家族を一つにすること

 

リカバリー教育プロジェクトの最も大きな功績の一つは、今までバーモント州で行われたどのような試みも達成できなかったやり方で、当事者、サービス提供者、家族を一つにすることだったかもしれません。バーモント州や他のどの地域でも、服薬を強制することなどの問題について、利害関係者がけんか腰で議論をしている時代に、リカバリープロジェクトは、利害関係者が集まり、一緒に作業をし学び、協力し、対立を避けることを可能にしました。指導者と学習者という両方の立場で、当事者、家族、サービス提供者が混ざり合うことで、従来は離れ離れになっていたグループが一緒になり、物事を進行し、これまでにはなかったような深いレベルでのコミュニケーションと理解がもたらされました。

 

これらのグループをまとめることに加えて、リカバリー教育プロジェクトによって、一つのカテゴリーのみに属する人は、それほど多くないことがわかりました。評価研究の調査に答えてくれた人の中で、95人(42%)は、当事者、家族、サービス提供者、ピアサポーターのカテゴリーのうち、複数に属すると回答していました。このことがわかっただけで、親近感が生まれ、私たちは共通していることのほうが多いことに気づかされました。

 

 

将来の展望と挑戦

 

連邦政府や州政府からの財政支援を獲得することで、リカバリー教育プロジェクトを継続することが出来ています。リカバリー教育プロジェクトは、まだ始まったばかりともいえます。「リカバリーのためのコース」の長期的な評価研究を行い、コースをさらによくするためのフィードバックを得ることが必要です。このコースを修了した人のリカバリーを継続的にサポートする方法について理解を深める研究も求めれています。いろいろな地域で、リカバリーサポートグループ、継続的な研修、当事者やスタッフのサポートなどの方法が試されていて、リカバリーに焦点をあてて、当事者を支援しサポートをネットワークするために、関連するサービスシステムを改革することも試みられています。提供される「リカバリーのためのコース」とファシリテーターの数が増えてきたことに対応して、ファシリテーターの質とコースの質を保つための方策について検討を始めています。

 

このプロジェクトはバーモント州の公的精神保健システムの将来を示しているといえるでしょう。ここで示されているのは、以下のような事柄です。当事者が病気を理解しコントロールすることに主体的に取り組むこと、当事者と専門職の間にあった壁を取り除くこと、当事者、家族、サービス提供者、地域の人たちの間で急速な学びが得られていること、当事者リーダー・指導者の存在が増大しつづけていること、そして、人々は精神病から回復することができ、実際に回復しているという最も重要な信念です。

 

 

 

Mary Ellen Copeland, PhD   PO Box 301,  West Dummerston, VT 05357
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