バーモント州リカバリー教育プロジェクト
バーモント州精神的困難からのサバイバーの会、バーモント州精神保健サービス局
はじめに
1995年の8月、バーモント州精神保健サービス局(DDMHS)は、リカバリー志向のサービスを開発することを精神保健サービスの実践重点課題に定めた。リカバリー教育プロジェクトはその中の一施策である。リカバリー教育のパイロット活動を一年間行った後に、“バーモント州精神的困難からのサバイバーの会”(VPS)は、DDMHSの援助とともに、Henry van Ameringen Foundationから多大な助成を受けて、バーモント州リカバリー教育プロジェクト(1997-1999)を実施た。ここではそのプロジェクトの主な活動内容と評価結果についてのまとめを報告する。
バーモント州リカバリー教育プロジェクト
バーモント州リカバリー教育プロジェクトではリカバリーを次のように定義している。リカバリーとは、希望を見つけ、自分の生活の中で精神的な症状がどのような意味を持つのかを理解し、自らの健康のために技術と知識を身につけ、最大限の回復を果たすことである。過去2年半の間に、バーモント州リカバリー教育プロジェクトでは、精神的な障害をもつ人、関心を持つ市民、家族と専門サービス提供者を対象に、リカバリーのための技法と実践を教えるプログラムをデザインし実施した。3つの形態のプログラムが実施された。それらは、①リカバリーのためのコース、②リカバリー教育イベント、そして③リカバリーのためのコースのファシリテーター(進行役)研修である。
これらのプログラムは、メアリーエレン コープランドが中心になって、精神的症状を経験してきた人々と、医療専門職や関係する組織団体との共同作業によりデザインされたものである。プログラムの目的は以下の2点である。
一つは、精神的症状を経験する人、その家族、サポーター、医療保健福祉専門職に、安全で簡単で効果的な方法を日々の生活のなかで用いることによって、どのように精神的な症状を軽減または取り除き、元気になり、元気であり続けることが出来るのかを学んでもらうこと。これらの技法は、薬やリハビリテーションのサポートを含むその他の治療を除外するのではなく、それらを補うものとして伝えられた。
二つ目は、リカバリーのためのコースに参加したピア(精神症状の経験をもつ人々)がネットワークをつくり、リカバリーに役立つ技法を人々に伝えるための、“リカバリーのファシリテーター”となるようにトレーニングすることであった。
2000年1月31日現在、バーモント州リカバリー教育プロジェクトは、23のリカバリーのためのコースを提供し、400人以上のピア、家族、サービス提供者が参加した。38人のピア、家族、専門職がリカバリーのためのコースを進行するファシリテーターとなるための研修を修了した。またリカバリーに関する教育的イベントは52箇所で開催された。ここでは、リカバリーのためのコースの評価を中心に述べることにする。
「リカバリーのためのコース」
メアリーエレン コープランドが作ったカリキュラムを使って、40時間のトレーニングが提供された。15人から20人の当事者(精神障害を持つ人たち)、家族、地域の住人、精神保健サービス従事者が各サイクルに受講生として参加した。トレーニングの進行は、精神的な症状の経験を持つ人と地域精神保健サービスの従事者の二人が行った。ときには、地域精神保健サービス従事者が精神疾患の経験者であることもあった。時間の割り振りは、20週間週一回2時間クラス、7週間週一回6時間クラス、40週間週一回1時間クラスなど、さまざまであった。
コースで扱ったトピックは以下のようなものである。希望、責任、自分のために権利擁護すること、学ぶこと、サポートなど、リカバリーに大切な事柄。医療と健康管理。サポートシステムをどのようにして作り維持するか。健康的な暮らし方について。自殺予防。トラウマに対処するためのステップ。各自の元気回復行動プラン(WRAP)をつくること。WRAP™は、このリカバリーコースのためにメアリーエレン コープランドによって考案されたものである。参加者はコースのはじめにWRAPの作業帳を受け取り、コース中にWRAPのプランを作ることが奨励された。
バーモント州リカバリー教育プロジェクトは、1997年7月から2000年1月までに21のコースを修了した。助成金によるプロジェクトが始まるまえの1996年11月から1997年の2月までの間に2回のパイロットコースが行わた。1997年の7月から2000年1月までのリカバリーのためのコースの参加者は、ピア、家族、地域住人、サービス提供者などを含む435人にのぼった。
これらのリカバリーを促進するための活動を推進するために、1996年の夏、リカバリー作業班が結成された。ピア、家族、サービス提供者、行政その他の利害関係者から構成された全州を代表するリカバリー計画グループである。リカバリー・プロジェクト・コーディネーターが雇われ、リカバリー作業班の指導の下に、リカバリー教育プロジェクトの計画と調整を行った。
「リカバリーのためのコース」の評価研究
評価尺度の開発
コースの評価を行うための調査項目は、バーモント州立大学社会福祉学部修士課程の学生の援助をうけて、リカバリー作業班によって開発された。質問の焦点は:
調査方法
態度、感情、知識、技法の習得などの面でどのような変化があったかを評価するために、40時間のコースの第一回目のセッションと最後のセッションにおいて、調査票への記入を依頼した。調査用紙はコースのファシリテーターによって配布され、回収された。リカバリーのためのコースの参加者435名中225人が最低一回は回答し、193人(44%)が前後2回の調査に回答した。
対象者
さまざまな方法をつかって参加者への呼びかけがなされた。地域精神保健センターのサービス利用者やVPSのセルフヘルプグループの参加者に呼びかけが行われた。ほとんどは、精神的な障害を持つ人々である。また、地域精神保健センターの中には、サービス従事者の参加を奨励するところもあった。それぞれの地域でリカバリーのためのコースについての案内が配布されたので、家族や地域の住人の参加もあった。すべての参加は自由意志によるもので、参加を希望する人はすべて受け入れられた。
回答を寄せた225人中、自分の立場についての自己報告の内訳は以下の通りである。
複数回答のための、総計は100%を超える。二つの立場に回答した人の内訳は以下の通りのである。
3つ以上の立場にあてはまると回答した人もいた。
当事者からの回答の結果
当事者であると答えた147名から回答を分析した結果、以下の項目で統計的に有意な肯定的な変化が示された。
専門サービスではない、自分のまわりにあるサポートを用いることが望ましいと思う。
クライシスプランについて、どのようにクライシスプランをつくるかについて理解が増したことを示している。
次のようなことについて、より多くの人が、安心して行えると思うと回答した。
次のような事柄については、有意な差は見られたかった。
この研究の限界点と考察
この評価研究では、これらの変化がもたらす長期的な影響は明らかにすることが出来ていない。リカバリーに大切なことがらについて学んだことは明らかであるが、それによって、どのような利点がもたらされたか、人々の暮らしに実際にどのような変化があったは明らかになっていない。参加者からの体験談からは、多くの人々の生活が向上したことがうかがわれるが、統計的なデータとしては集められていない。将来、コースに参加した人を長期的にフォローアップし、特定のアウトカム(住居、雇用、緊急サービスの利用、入院、生活の質など)を測定する研究が望まれる。
また、今回の評価研究では、コースを途中でやめた人、コースの前と後の両方あるいはどちらかに回答しなかった人については、情報が得られていない。そのため、コースを修了しなかった人に、どのようなプラスあるいはマイナスの影響があるかについては不明である。
この評価研究により、リカバリーのためのコースを受ける前と後を比較すると、リカバリーについての態度、理解、暮らし方、特定の技法に関してプラスの変化が示された。これらの結果から、リカバリーのためのコースは効果的にリカバリーに大切な事柄を伝達することが出来たといえる。しかし、これらの評価結果からだけでは、バーモント州でリカバリー教育プロジェクトが、人々にもたらした多大な変化の全体像を明らかにすることは出来ていないことも付け加えておきたい。