元気回復行動プランを使った精神疾患の自己管理
Judith Cook Ph.D.
精神疾患からのリカバリーはコンセプトとしては新しいものだが(Deegan, 1988)、リカバリーという考え方が一般的になるずっと以前から、精神的な困難をもつ人たちは地域のなかで自己管理を行い機能してきている(Harding, Brooks, Ashikaga, Strauss, & Breier, 1987)。精神科の診断名をもつ人たちは、さまざまな方法で“生活を取り戻し”てきており(Allott, Loganathan, & Fulford, 2002)、それらはこの20年の間に記録され形式化されはじめている。
自己管理―つまり人が元気になろうと決意して病気を管理し行動を起こし、問題に立ち向かって選択を行うことで、精神疾患からのリカバリーが促進されることが研究で明らかになっている(Allott et al., 2002)。自己管理の方法は人の数だけ存在するが、いくつかの共通して見られる技法には次のようなものが含まれる。問題について書き出すか話をする、友達と連絡を取るか訪問する、運動、祈りや瞑想をする、創作的な活動、良質の栄養を取る、自分のために権利擁護するなどである(Rogers &Rogers, 2004)。自発的に精神科の薬を服薬することと精神保健サービスを利用することも多くの人が自己管理の一部として用いている。精神科の疾患の自己管理は、当事者主体の精神保健サービスの核心をなすものということもできるであろう。
近年、マニュアル化された自己管理プログラムがいくつか開発されているが、その中で最も広く使われているものは、メアリーエレン コープランドのWRAPと呼ばれる元気回復行動プランであろう (Copeland, 1997)。参加者がリカバリーを促進させる内在あるいは外在する資源を見つけ、それらの道具を使ってうまく生活するための自分自身のプランを作るのがWRAPである。WRAPをつくるにはまず、元気に役立つ自分の道具箱を作ることからはじめる。それは簡単で安全、無料か低額の自己管理の方策であり、例えば、健康的な食事、運動、睡眠パターン、大人の役割を担うことなどである(Copeland, 2004)。この道具箱を使って、リカバリーに向かいリカバリーを維持するための個別のプランをつくっていく。症状の悪化をしめす注意サインやクライシスのサインをみつけ、どのようにすればそれに対処し気分をよくすることに役立つかについてのプランが含まれている。WRAPはまた、クライシスプランを作り、クライシスのときにどのように対応して欲しいかを指示すること(精神科入院治療の事前指示書のようなもの)や、クライシスを脱してリカバリーの道に再び戻るためのプランを作ることも奨励されている。
精神疾患の自己管理プログラムは当事者主体のケアの中心部分をなすものなので、医学研究所(IOM)が“質の深淵に橋をかける”(Crossing the Quality Chasm)報告のなかで述べている患者中心の医療の理念とそれに期待するアウトカムに非常に似通っていることもうなづける(IOM, 2001)。両者のプログラムのゴールは共に、健康に関する行動と態度の変容であり、厄介な症状をよりよく管理し、高いレベルの健康と機能を維持するための新しい知識や技法の習得に注意が向けられている。疾病管理のための構造化された技法の利用と、自己評価と自己モニターの利用がどちらのやり方においても不可欠な要素とみなされている。
WRAPの有効性を示す科学的根拠
WRAPの有効性の根拠はモデルの考案者によって開発されファシリテーターによって広く用いられている事前事後テストの尺度をつかった評価によるところが大きい。WRAPが当事者の生活に与えた影響、WRAPの技法の利用、WRAPを他のピアにすすめるかどうかについて事前事後比較のデザインを用いた研究が多くなされている。バーモント州リカバリー教育プロジェクトでは、1997年から1999年の間に23サイクルのWRAPのトレーニングを提供し435人が参加した。そのうちの193人(44%)から有効な回答が得られた。当事者である147名の回答について一対両側t検定を用いた分析の結果は以下の通りである。前後を比較して統計的に有意な向上が見られた項目は、精神症状の注意サインについての知識と前駆症状に対処する方法と技法に関する知識、サポートグループを用いること好む、精神疾患を持つ人にサポートを依頼することを好む、日常の生活の中で元気に役立つ方法を用いているなどである。またリカバリーに対する希望が高まったことが示された。さらに当事者の自己評価において、クライシスプランの必要性の認識とクライシスプランを作りたいという気持ちの高まり、緊急時に連絡をとるサポーターのリストがあること、自分のクライシスを示すサインについて説明することができるなどの項目で統計的に有意な差が見られた。最後にWRAPのトレーニング後、以前に比べて地域のサービスについて質問をし情報を得ることと自分の権利擁護がやりやすくなったという結果が報告されている。
ミネソタ州で行われたWRAPのプログラム評価では、2002年から2003年にかけてミネソタ州全体で行われた42のWRAPサイクルの結果が報告されている。305人の当事者が参加し、234人(77%)から事前事後テストの結果が得られた(Buffington, 2003)。χ2乗両側検定による分析によると、トレーニング後に以下の項目についてより多くの人が肯定していることがわかった。それらは、リカバリーに対する希望、自分の健康に自ら責任を取っている、サポートシステムを持っている、服薬管理をうまく行っている、元気でいるために毎日しなければならないことのリストを持っている、引き金となる事柄に気がついている、症状の注意サインに気がついている、前駆症状に対処するプランがある、クライシスプランを持っている、リカバリーを促進する生活様式を実行している、リカバリーに役立つ行動をとることは簡単だと思うである。すべての回答者(100%)がリカバリーに関してより多くの希望が持てるようになったと答え、93%(130人)が、他の当事者にWRAPのトレーニングに参加することを勧めると回答している。全米50州でWRAPの取り組みが進行中であり(コープランドとの個人的な通信による)、今後、当事者主導のサービスに関する有効性について、コントロールされた場と実際の現場において、より厳密な評価を行う機会が得られることが期待できる。
まとめ
US Agency for Healthcare Research and Qualityによる科学的根拠の重み付けガイドライン(1992年)によると、WRAPの有効性に関する科学的根拠はIIBのレベルに相当する。つまり、この介入によって行動もしくは態度の変容が促されることについて、比較群は持たないが適切に計画された準実験計画法をもちいた研究が一つ以上行われたことにより科学的根拠が得られているというレベルである。今後、リカバリーを促進する上でこのモデルの有効性を探索する研究が行われてることを期待する。